故人の悪口

亡くなった恩師の奥様から

シフォンケーキが届いた。

シフォンケーキ専門店もその味に及ばぬ

まさにシフォンのケーキで

それは恩師の自慢でもあった。

お礼の電話で

奥様と話すうち

恩師の悪口大会になった。

「講義の帰りにカフェに寄り

よせばいいのに毎回

シフォンケーキを注文し

必ず『ウチのがうまい』とケチつけていたんですよ〜。ひどいですよね〜」

と自分が言えば

「ほんとに細かいことも病院から

すーぐ電話してくるから携帯代が大変だったんですよ〜」

と奥様が言い、自分が

「何にでも本当にこだわって、細かくて

全部奥様に甘えまくってたから

大変ですよね〜」

とか。

言いたい放題である。

二人でひとしきり

そんなことを話して大笑いした。

悪口を言い合ううちに

少しだけ

寂しさが蒸発していったような気がした。

暖かくなったら

また悪口を言い合うために

遊びに行く約束をして電話を切った。

先生は

今頃、天国で苦笑いしているかもしれないけどね。