傘を届けて

「傘を届けに来てくれなかったの

娘ちゃんのママだけだったー。

みんなのママ、傘持って来てたー!」

突然の雨、

貸し傘で帰宅した娘に責められた。

仕事に出ていて迎えになんて行けぬ。

子どもの言う「みんな」なんて

せいぜい「2、3人」だろうと思いながらも

今度行ける時に行くからね、と約束した。

むなし

ほどなくして

在宅時に突然の雨。

迎えにいけるチャンスだ。

慌てて傘を持って迎えに行くと

お迎えなんて誰もいない。

友達と共に貸し傘を借りていた娘は

「あー、別に来なくても大丈夫だったのにー」

おいおいおい、と脱力し

娘に傘を渡して先に玄関を出る。

丁度、校庭の反対側に

雨の中を走る息子を見つけたので

「息子〜!」と大声で呼ぶと

息子はこちらを

一瞥して走っていった。

校門を出たところで

追いついて傘を渡すと

「いらなかったのに」と言って

傘を小脇に抱えて

走り去った。

置き去りにされた母の虚しさよ、よよよよ。

放尿

母も虚しいが、

同級生の沢山いるところで

息子も恥ずかしかったのだろう。

一人で歩く通学路、

野良で勢いよく放尿する中年女性

を思い出した。

「二十四の瞳」の作者

壺井栄の作品の登場人物だ。

音立てて放尿する中年女性を

見た少女が

大人というデリカシーのないものに

嫌悪感を抱く描写があり

子どもだった私も

あぁ、おばさんになりたくないなぁ

と思ったのだった。

30年も前のことだ。

あーあ、

子どもの恥ずかしさに気付く心とか

自分の恥じらいとか

失くしたくないよ〜。

でも、肩透かしくらう虚しさを

引きずらない図太さと引き換えに

色々失ってんだろうな。

まだ

野良で勢いよく放尿はしてないけどさ。